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はじめに

夜尿症は,夜間の尿産生メカニズムの異常や夜間の蓄尿メカニズムの異常,あるいは睡眠覚醒の異常等の様々な要因が複雑に関与した症候群とされている.これらの要因にもとづく夜尿症のサブタイプ(病型)分類についてはいくつかのものが提唱されているが,国内あるいは海外においても必ずしも統一されてはおらず,本ガイドラインで,学会として提唱することはひかえることとした.
また,夜尿症は自然経過で治癒する頻度が比較的高く(就学児では年1015%の自然治癒),治療については,かっては自然経過を見守る考えが強かったが,近年は,本人への心理的負担の大きさ,一部の症例では成人への移行が明らかにされ,就学以後も持続する夜尿症には様々な治療が試みられている.しかしながら,現在行われている治療法には根拠が不十分で,本人,家族への心理的,肉体的,経済的負担が大きいものもあり,また,薬物療法では副作用にも留意しなければならない.
そこで,日本夜尿症学会では5年前から夜尿症診療のガイドライン作成委員会を立ち上げ,国内外の報告をもとに学術集会,理事会での検討をかさね,ここに「夜尿症診療のガイドライン」を提示する.今回提示する内容は,「用語の定義」,「基礎疾患の除外」と治療法についてはその効果が国際的に確立されている「夜尿アラーム療法」,「三環系抗うつ剤」,「抗利尿ホルモン剤」と過活動膀胱に効果が期待される「抗コリン剤」についてである.これら以外の治療法についての指針は次回のガイドラインの修正に持ち越すこととした.いずれの治療をおこなう場合にも,治療法の目的,効果,自然経過との比較,経済的負担,副作用について十分に説明し,本人,家族の希望を配慮することは当然のことである.

日本夜尿症学会 ガイドライン制作委員会


  1. 用語の定義
    遺尿(尿失禁)に関係する用語の定義として,国際的に通用しているInternational Children's Continence Society (ICCS) が1998年に提唱した内容1) および最近発表された夜尿症治療戦略の内容2) を要約する.夜間睡眠中の尿漏れをNocturnal Enuresis (Enuresis nocturna) ,昼間の尿漏れをUrinary incontinenceとし,その中で頻尿,尿意切迫感ともなう尿漏れをUrge syndromeと表現し,その要因としては過活動膀胱の存在を考えている. Nocturnal Enuresisには昼間のUrge syndromeがある場合も含むが,夜間睡眠中の尿漏れのみのものをMonosymptomatic nocturnal enuresisとし,昼間のUrge syndromeを伴う尿失禁はEnuretic syndromeと区別している.また生来持続している夜尿症をPrimary nocturnal enuresis(一次性),6ヶ月以上自立した後にみられる夜尿症をSecondary nocturnal enuresis(二次性)としている.
    これらの日本語訳の統一されたものはないが,Enuresisを遺尿(症),Urinary incontinenceを尿失禁(症)と表現するのが一般的であり,本ガイドラインでは,夜間の尿漏れだけのものを夜尿症,昼間の尿漏れだけのものを(昼間)尿失禁症,夜間,昼間とも尿漏れのあるものを遺尿症(尿失禁症)として表現する.また,治療の対象は小学校入学以後とするのが一般的である.
  2. 遺尿症における基礎疾患の除外
    違尿症のうち夜尿症は基礎疾患がなく,夜尿のみの訴えであるものが大部分であるが,一部に(表1/PDF)に示す基礎疾患を有していることがある.これらの基礎疾患がある場合には,家族歴,発達既往歴,現症,身体所見,排尿状態に特徴があることが多い.遺尿症の診療にあたり,まず行うことは(図1/PDF)に示す手順に従い基礎疾患の存在を否定する.(昼間)尿失禁症がある場合には,機能的膀胱容量の低下しているものが大部分であり,頻尿,尿意切迫感を伴っていると基礎疾患を有する頻度が高くなる.また,夜尿のみであっても治療に1年以上全く反応がみられない場合には,基礎疾患を除外する必要がある.
    以下に,遺尿と密接に関わる主要な基礎疾患について述べる.これらの基礎疾患がみられる場合には,基礎疾患の治療と遺尿の改善は必ずしも平行しないことがあり,遺尿の改善目的での基礎疾患の治療には十分な説明と同意が必要となる.
    基礎疾患でみられる遺尿の原因は,夜間多尿のため,膀胱機能障害のため,その他のものに分けられる.
    1. 夜間多尿のためのもの
      1) 先天性腎奇形
      低形成腎,異形成腎,水腎症など先天性両側性腎奇形では,腎機能障害が進行していると低張多尿のための夜尿症がみられる.
      2) 尿崩症
      尿崩症(中枢性,腎性)の不全型の場合には,多尿のみで夜尿症として見逃されていることがある.
      3) 糖尿病
      糖尿病は,発症時あるいは血糖コントロールが不良時に,高張多尿のための二次性夜尿症をみる場合がある.
      4) 神経性多飲症
      神経性多飲症で多飲が恒常的にみられると,昼間,夜間とも低張多尿となり,二次性夜尿症をみることがある.
    2. 膀胱機能障害のためのもの
      1) 下部尿路疾患
      尿路感染,検尿異常の既往などがあり,排尿回数の異常(8回/昼間以上あるいは3回/昼間以下),尿意切迫感ともなう(昼間)尿失禁,排尿後の尿漏れなどがみられる場合には,尿道狭窄,慢性尿路感染症,過活動膀胱,Hinmann症候群などの下部尿路疾患の存在が疑われる.
      2) 脊髄疾患
      腰部の皮膚異常がみられると2分脊椎,脊髄脂肪腫,Teterdcord症候群などの脊髄疾患が存在する可能性が高く,慢性の便秘,遺糞とともに,神経因性膀胱に起因する遺尿症がみられることが多い.
    3. その他のもの
      1) 尿管異所開口
      尿管異所開口は,尿管が膀胱ではなく,外陰部 膣あるいは子宮に開口しているもので,女児にみられ,生来の昼間夜間ともドライタイムのない尿漏れがみられる.
      2) てんかん発作
      てんかん初発時,発作コントロール不良時には,てんかん発作に伴う尿失禁がみられることがある.
      3) 睡眠時無呼吸症候群
      発症機序は不明であるが,扁桃やアデノイドの高度肥大,高度の肥満等による睡眠時無呼吸症候群では,明らかに夜尿頻度が高い.
      4) 注意欠陥多動障害
      遺尿,遺糞の頻度が高いと言われている.
  3. 夜尿症の治療
    夜尿症の治療には,大きく分けて生活指導,行動療法と薬物療法がある.これらの治療法についてはエビデンスが不十分なものが多い.先に述べたように夜尿症は,多因子が関与する症候群であり,単一の治療ですべてが改善するものではない.また,夜尿の改善率が低くエビデンスが不十分な治療法であっても,症例を適切に選択することによって著効することもある.
    治療は,単に夜尿日数の減少だけでなく,夜尿日誌あるいは排尿記録を継続して記録し,夜尿日数,夜尿量,一晩の夜尿頻度,夜間尿量,尿意覚醒の有無,(昼間)尿失禁頻度,(昼間)尿失禁量,排尿量(最大,平均)などを確認し,これらの状況が改善しているかを客観的に評価しながら行うことが望まれる.
    1. 生活指導
      生活指導がどの程度夜尿の改善に効果があるかの明確な根拠はないが,食事内容,飲水量,排尿習慣のコントロール,就寝時排尿の履行とともに,夜尿をしていることへの本人の心理負担を軽減することは子どもの健全な成長,発達を促す意味でも重要である.抗利尿ホルモン剤投与時には厳重な飲水量のコントロールが必要となる.
    2. 行動療法(理学療法,心理療法など)
      夜尿症の治療には古くから夜尿アラーム療法,一定時間での覚醒療法,心理療法,排尿訓練(排尿抑制,排尿中断など),バイオフィードバック療法,針,電気刺激,低周波,超音波療法などいわゆる行動療法が行われている.しかしながら,夜尿アラーム療法以外3) 4) 5) については効果が不安定であり,根拠が明確なものは少なく,個々の行動療法の適応も明らかにされていない.しかし,これらの行動療法は,薬物投与と併用することにより,より効果がみられることもある.
      1)夜尿アラーム療法
      (1) 概要
      夜尿アラームは,夜尿の水分を感知して警報が鳴る装置であり,1930年代より多くの報告がある.2種類のアラームが使用されており,シート状のアラームでベッドの上に敷くタイプのものはPad and bell alarmと呼ばれ,下着や体に直接装着するものはBody worn alarmと呼ばれる.両者の治療効果には差がないと報告6) されているが,最近では,感度の問題等でBody worn alarmが好んで使用される.
      作用機序としては,夜尿直後にアラーム音で覚醒させるため,尿意覚醒をするようになると考えがちであるが,実際は多くの症例において睡眠中の尿保持力が増大し,尿意覚醒をせずに朝までもつようになる7).夜尿をする瞬間の膀胱容量(夜尿時膀胱容量)を夜尿アラームによる治療中に測定すると,有効症例においてはこの夜尿時膀胱容量が1―2ヶ月で約1.5倍と,急激に増加する.これらの結果より,夜尿アラーム療法の作用機序は,睡眠中の膀胱容量(尿の保持力)を増加させることではないかと推測されている.
      (2) 観察項目
      治療開始前に問診や夜尿日誌より,夜尿日数とともに可能なら一晩あたりの夜尿回数を確認しておく.使用にあたっては寝室が遠いと保護者にアラーム音が聞こえなかったり,一緒に寝ている兄弟や父親が寝不足になるなど,家庭環境にも配慮する必要がある.アラームが鳴る時間が徐々に朝方になってくると,改善していると判断できるため,その時刻を夜尿日誌に記録しておくことが望ましい.
      (3) 治療法
      アラームの種類によって異なるが,基本的には就寝前に下着に装着する.患者がアラームのみで目覚めない場合も少なくなく,その場合は家族が起こす必要がある.また,最初は自分で目覚めても,慣れてくると起きなくなることもあるため,その場合も家族の協力が必要である.一晩に2回以上夜尿をする場合は,複数回目覚めると睡眠不足になることがあるため,1回目の夜尿時のみアラームを装着し,あとは装置をはずすことが望ましい.治療開始後1~3ヶ月間で,全く効果をみられない場合は,他の治療への移行や併用療法を考慮する.
      尚,夜尿アラーム療法は,Monosymptomatic nocturnal enuresisが対象となり,年齢,夜尿回数,夜尿時間帯,排尿量等が検討されているが,現在のところ適応については明確にされていない.
      (4) 効果
      有効率は,多くの論文を対象としたメタアナリシスによると62―78%である8) 9).また治療中止後の再発率は6―66%と報告されているが,メタアナリシスによると15%である8).ただ,多くの場合,アラームが鳴っても本人は覚醒せず,親が起こす必要があるため,ドロップアウトが10―30%前後と多い10) 11).この治療法を第1選択として推奨している海外の文献は多く11),Evansによる多くのメタアナリシスをまとめた報告でも,短期的,長期的ともに有効な治療法とされている12).デスモプレシンやイミプラミンとの比較でも,夜尿アラーム療法のほうが有効と報告している論文
      もある7)
      (5) 副作用,注意点
      治療に手間がかかるため,患者,家族ともに治療に意欲のある場合に適応となる.アラーム音でめざめない時など,家族の協力が必要となるが,それが得られない場合には,夜尿アラームは適応外とするのが望ましい.また,夜尿日数が少ない場合は,アラームの鳴る回数が少ないため十分な効果を示さない場合があり,メタアナリシスにおいて夜尿日数が週2―7日の治癒率は28%と推定されたが,6―7日の場合は58%である13)
    3. 薬物療法
      夜尿症に対する薬物療法には,三環系抗うつ剤,抗コリン剤,抗利尿ホルモン剤,プロスタグランジン合成阻害剤,β2刺激剤,漢方薬,選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)などの報告がみられる.そのうちメタアナリシスにより有効性が証明されているものは,三環系抗うつ剤14),抗利尿ホルモン剤15)のみである.抗コリン剤16)については,その作用機序から考えて過活動膀胱が示唆される症例に,有効性が期待されている.多剤併用については多くの報告がみられ,適応,投与順序,効果等について検討されているが,十分なデータが集積されておらず今後の課題である.いずれの薬物でも夜尿の消失をみた場合には,一定期間は同剤,同量の治療を継続し,その後に減量,中止していく.
      これらの薬物の中には,小児に対する安全性確認が不十分な薬物も含まれており,副作用には十分に留意し,添付文書に記載されている臨床症状の変化とともに,血液検査で肝機能や腎機能障害,末梢血液検査異常等をチェックする.
      1)三環系抗うつ薬
      (1) 概要
      夜尿症の治療薬として古くより知られている三環系抗うつ薬には,clomipramine hydrochloride(アナフラニール®),imipramine hydrochloride(トフラニール®),amitriptyline hydrochloride(トリプタノール®)等があり,この順序で効果が強い.夜尿症に対する薬理作用としては,尿意覚醒を促進する作用,抗コリン作用,尿量減少作用 などが知られているが,実際どの作用により有効性がもたらされているのかは,はっきりしていない.
      (2) 観察項目
      これらの薬物を投与する場合には,てんかん,心疾患などの既往歴を十分確認する.投薬中は,定期的に副作用の有無を確認するとともに,血液検査で肝機能や腎機能障害,末梢血液検査異常等をチェックする.また,投薬中には,尿意覚醒をする回数が増加することがある.
      (3) 治療法
      それぞれの薬の初回投与量は10mgとし,夕食後あるいは就寝前投与で開始する.就寝前投与の場合には,少量(50cc程度)の水で服用するように指導する.以下に述べる副作用がみられた場合には直ちに服用を中止する.効果がみられても不十分な場合には,25kg未満の場合は20mg(10mg錠を2錠),25kg以上の場合には25~30mgに増量する.治療開始後2週―2ヶ月で全く反応がみられない場合には中止するか,他の治療法との併用に移行する.
      尚,本剤はMonosymptomatic nocturnal enuresis,Enuretic syndromeともに用いられるが,薬理作用が複雑であり,どのようなタイプの夜尿症に有効かについての報告は現在のところない.
      (4) 効果
      有効率は,日本での無作為対象試験においては43.1%,海外では50%前後と報告されている7) 17) 18).しかし,投与中止後の再発も多く,長期の有効率は17―25%という報告がある .
      (5) 副作用,注意点
      副作用の発現率は,本邦では12.3%と報告されている17).食欲不振,悪心,嘔吐,不眠,眠気などの副作用に注意すべきである.重篤な血液,肝障害19)を引き起こすこともある.また,てんかん発作を誘発することがあり,てんかんのある患者には,脳波所見や発作のコントロール状態(血中濃度等)等を確認の上,慎重に投与すべきである.さらに心毒性や多量服用による死亡例の報告もあり20),十分な指導,服薬管理,薬物の保管のもとに注意をして服用させる必要がある.特に抗利尿ホルモン剤,抗コリン剤併用時には,相乗作用がおきやすい.日本においては,重篤例は報告されていないが,ヨーロッパではこれらの副作用のために第一選択剤としては勧められていない.
      2)抗利尿ホルモン剤
      (1) 概要
      抗利尿ホルモン剤である酢酸デスモプレシン(DDAVP)は,中枢性尿崩症の治療薬として開発されたアルギニンバゾプレシンの誘導体である.この薬剤の薬理作用は,主に腎集合管のV2レセプターに作用し水の再吸収を促進する.本剤が夜尿症に有効であることは,国内外に多くの報告があり,海外においてはその有効性がメタアナリシスにより立証されている21) 22) 23) 24).日本においてはプラセボを対照とした二重盲検法によりその有効性が確認され25),夜尿症治療薬(デスモプレシン スプレー10協和®)として認可されている.
      (2) 観察項目
      治療前に排尿記録,夜尿日誌などにより生活時間,夕方以降の水分摂取時間と摂取量,夜尿頻度・夜間尿量・1回夜尿量,日中の排尿量,排尿回数と(昼間)尿失禁の有無について確認する.夜尿があった翌朝の起床時尿浸透圧(尿比重)の測定は,本薬剤の適応診断のために必要不可欠な検査である.治療中には夕食時間と就寝時間,水分摂取状況の把握とともに,本剤の薬効を確認するために,定期的に夜間尿量,起床時尿浸透圧(尿比重)を測定する.
      アレルギー性鼻炎があると,本剤の吸収を著しく低下させ,治療効果を減少させるので,鼻症状を有する場合には,必要に応じて鼻炎の診断,治療を行うとともに,点鼻前に鼻を十分かむことが重要である.
      (3) 治療法
      1日1回,就寝前にデスモプレシン・スプレー10協和を左右どちらかの鼻腔へ1噴霧(10μg)する.効果が不十分な場合あるいは起床時尿浸透圧,比重の上昇が不十分な場合には,スプレーを左右の鼻腔へ各1噴霧ずつ,計20μgを投与するが,1日最高用量は20μgとする26).効果がみられた時の減量法に関する報告は少ないが,北欧では20~40μgの高用量が一般的投与量27)となっており,DDAVPを徐々に減量することより再発率が低下するとの報告28)もある.一般的には,効果がみられたときには3ヶ月前後は治療を継続し,その後に治療を1~2週間休止して,夜尿状況を観察し,その後の投薬の継続や減量あるいは終了を検討することが推奨されている29) 30).1日最高用量を20μgで,かつ起床時尿浸透圧,比重の上昇が十分な状態で1―2ヶ月以上夜尿の消失がみられない場合には中止するか,他の治療との併用を考える.
      本剤はMonosymptomatic nocturnal enuresisのうち夜間尿量の多いもの,夜間尿浸透圧(比重)の低いもの,夜間抗利尿ホルモン分泌が不十分なもの30),昼間排尿量が年齢相応なものなど多くの検討がなされているが,十分なコンセンサスがえられていない.我が国では,起床時尿浸透圧が800mOsm/L以下(尿比重が1.022以下)の夜尿症に対して認可されている.
      (4) 効果
      海外では,本剤の夜尿症に対する短期投与での有効例(夜尿日数が50%を超えて減少した場合)は60~80%と高く報告されており,プラセボとの比較試験でも,その有効性は確認されている.日本での治療成績は,塩酸イミプラミンとの二重盲検群間比較試験で有効例は39.4%であり,夜間尿浸透圧低下(800mOsm/L以下)があり,昼間排尿量が250ml以上で塩酸イミプラミンより有効性が高いことが確認されている17).プラセボを対照とした二重盲検比較試験で,起床時尿浸透圧が800mOsm/L以下(尿比重1.022以下)の夜尿症への本剤投与群での夜尿日数減少は,4.3±4.1日/14日(プラセボ群では1.7±3.1日/14日)と有意であることが確認されている25).短期投与での再発率は56~100%と非常に高く21) 22) 23) 24),再発率減少のために色々と減量法が工夫されているが,今後の課題である.
      長期投与の成績は,スウェーデンのグループ(SWEET)の399例を対象とした報告29)があるが,61%が4週間の初期治療で夜尿日数が50%以下に減少し,その有効症例に対してさらに1年間の長期投与を行なった結果,77例(19%)は本剤投与中止後にも夜尿の消失が持続し,73例(18%)は本剤の投与継続で夜尿の消失が持続した.
      (5) 副作用
      水中毒が最も重大な合併症で,就寝前の本剤投与前に,多量の水分を摂取することとの関連が指摘されており31),夕食時を含めた就寝2~3時間前からの水分摂取の制限が重要であり,その間に240ml以上の過剰な水分摂取した時には,本剤の投与を控える.また喘息発作,周期性嘔吐などにより水分摂取が必要な時,点滴治療中,直後は,本剤の投与は行わない.
      水中毒防止のためには,その前駆症状(頭痛,嘔気・嘔吐,顔色不良)のチェック,定期的な血清ナトリウム,血漿浸透圧を調べることが望まれる.
      3)抗コリン剤
      (1) 概要
      夜尿症の治療薬として,硫酸アトロピンや臭化プロパンテリン等の抗コリン剤の有効性が古くから示されていたが,その投与法,潜在性毒性や副作用が問題となっていた.そして,尿失禁ならびに頻尿治療薬として開発された塩酸オキシブチニン(ポラキス®)や塩酸プロピベリン(バップフォー®)等の抗コリン剤が夜尿症治療に用いられるようになった.これらの薬剤の薬理作用は,抗コリン作用および平滑筋直接作用によって排尿運動抑制作用を発揮し,初発尿意量,最大膀胱容量の増加ならびに膀胱の無抑制収縮を減少させる.
      (2) 観察項目
      問診で緑内障,心疾患,重度な便秘,重症筋無力症などの既往歴を十分に確認する.投与中は,口渇,便秘,下痢,胃部不快,嘔吐,紅潮,頻脈,頭痛,めまい,視力のぼやけ,倦怠感,発疹等の副作用の有無を確認するとともに,血液検査で肝機能や腎機能障害,末梢血液検査異常等をチェックする.
      (3) 治療法
      塩酸オキシブチニンでは2ないし3mg,塩酸プロピベリンでは10mgから夕食後(服用時飲水量が多い場合)ないし就寝前投与で開始する.(昼間)尿失禁を随伴する場合には,朝食後にも投与する.体重25kg以上では,塩酸オキシブチニンでは1回2ないし3mg,塩酸プロピベリンでは1回20mgを1日1回または2回投与する.本剤は小児への投与の安全性が確立しておらず,副作用出現には細心の注意をはらいながら,治療開始後1ー2ヶ月でも(昼間)尿失禁の改善や機能的最大膀胱容量の増大がみられず,夜尿にも変化がない場合には中止するか,他治療法との併用に移行する.
      抗コリン剤は,(昼間)尿失禁の改善や機能的最大膀胱容量の増大が認められることから,尿失禁,頻尿や尿意切迫感等の症状を有する過活動膀胱による低膀胱容量の夜尿症に適応と考えられるが,安全性,投与量,投与方法,投与期間等,検討すべき事項が残されている.
      (4) 効果
      海外での(昼間)尿失禁を伴わない夜尿症に対する塩酸オキシブチニン10mgとプラセボによる4週間投与の二重盲検試験の結果では,両群に有意差は認められなかったと報告されている32).また日本での本剤1回2ないし3mgを1日1または2回4週間投与した検討でも,50%以上の改善は8.3%と不良な成績であった33).これに対してイミプラミン無効例あるいは尿失禁,頻尿や尿意切迫感等の症状を有する夜尿症に1日15mgを2ヶ月以上投与した検討では,膀胱内圧が正常の症例では夜尿改善率が30%であるのに対して,無抑制収縮あるいは膀胱内圧の異常症例では76.7~88%と良好な成績を示している34) 35) 36).一方,塩酸プロピベリン10ないし20mgを投与した検討では,50%以上の改善が9.7から24%と不良であるが,海外における塩酸オキシブチニンの検討に比べて低用量であり,膀胱内圧の検討は行われていない37) 38).日本で認められている1日最高投与量は,成人で塩酸オキシブチニン9mg,塩酸プロピベリン40mgである.
      投与中止後の再発率についての報告は少なく,イミプラミン50%に対して,塩酸オキシブチニンでは31.2%という報告がある39)
      (5) 副作用,注意点
      塩酸オキシブチニンにおける副作用の発現率は,本邦では4.8%で,便秘,下痢,ドライアイ,口渇,吐気,味覚異常であった33).海外における高用量投与による副作用発現率は7.7~56.5%で,口渇が多く,治療中断は頻脈,紅潮,嘔吐によるものが2.6~5.6%報告されている36).一方,塩酸プロピベリンにおける副作用発現率は,軽度な口渇で,0.93~4%と報告されている37) 38).しかし,本剤では腎機能障害,横紋筋融解症,Stevens―Johnson症候群,心電図異常等の副作用の記載もある.また両薬剤とも肝機能障害,精神神経系症状,血小板減少症等の副作用にも注意を要する.

日本夜尿症学会 ガイドライン作成委員
河内 明宏,津ヶ谷正行,相川  務,赤司 俊二

 
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